不動産の売買価格と評価額

スルガ銀行が主導したとするアパマンの不正融資問題がいよいよ司法の場にステージを移すようです。

今までも表立ってはいないものの、個人単位での調停や裁判があったと聞いています。ただ、個人での戦いにおいて「完全勝利」した例はなく、よくて刺し違え程度、下手をすると完全に負け、という決着しか私の耳には届いていません。

私も金融機関こそ違えど

圧倒的に信用力のある金融機関が自ら首謀者になり不正融資を反復的に実行してきた

その被害者として西武信金及び不動産鑑定士と戦っていますのでシンパシーを感じています。

今回、被害者が団結、集団で戦うことは個人で戦うよりも数倍のパワーがあるはずですので、ぜひいい結果を出して欲しいと願っています。

ただ、このスルガのアパマン不正融資問題においては、SNSで発信されている情報には正直いくつかの???を感じていますので、今回はそこにフォーカスしてみます。

収益不動産の売却価格の設定は売主の自由

不動産の売却価格の設定は売主の専権事項です。ひとつたりとも同じ物件がなく、定価や規制等も一切ありません。売主がいくらに設定しようが何ら問題ありません。

ただし、一般的な相場というものはあります。地域、物件の規模、構造、築年数などからざっくりした相場感が形成されており、それよりも著しく高ければ売りづらい、逆に極端に安ければすぐに売れる、ということだけです。

自由市場での経済活動ですので、どんな条件であろうと売主と買主で合意すれば売買は成立します。

金融機関の評価額

スルガに限らずどの金融機関においても、その物件の購入資金を融資する際には物件の評価額を計算し、それを担保として融資を実行します。

金融機関の評価額 x 金融機関ごとの掛け目 (+買主の信用) = 融資(額、金利、返済期間)

評価額を算出するために用いる計算手法はほとんどの場合「積算評価」、場合によっては「収益還元評価」でししょう。

過去に私もスルガで融資を引いて物件を購入したことがありますが、積算と収益還元、どちらも計算されていました(計算したのは業者)。さらに、現在進行形で争っている西武信金においてもどちらも使っていました(計算したのは西武信金が依頼した不動産鑑定士)。

積算評価

ほとんどの金融機関がこれを採用していると思います。

物件の評価額=土地の評価額+建物の評価額

土地の評価額は国税庁が毎年発表している路線価x土地面積。建物の評価額はその構造(木造、鉄骨造、RC造)による基準単価x床面積-築年数で算出します。

土地は都心部より地方のほうが、建物は新しい物件より古い物件のほうが評価は低くなることになります。一時期、地方のRCの物件が飛ぶように売れていましたが、それは土地値は大したものでなくても建物の評価が出やすいためでした。

収益還元評価

得られる見込み利益から逆算して物件の価値を判断

これが収益還元評価となります。

積算評価の場合、築年数が進むと評価が出ないということになります。しかし、都心部などでは築50年超の物件でも現役として稼働している建物は腐るほどあります。このようにまだまだ利益を生み出せる物件においては、積算だと評価が出なくても収益還元なら評価が出る、そんなことが普通に起こり得るため、別の観点からの指標として用いられています。ただし、収益還元評価を用いる金融機関は限られています。

売却価格と融資額との差分を埋める

積算・収益還元、どちらで計算しても

売却価格 > 評価額 > 融資額

このようになるのが普通です。

仮に売却価格よりも評価額や融資額のほうが高い場合、それは本来もっと高く売れるのに安値設定しているということです。よほど急いで現金化しなければならないなどの理由がない限りこんなケースはまずありませんし、あったらつべこべ言わずに即買い!でしょう。

基本的に売却価格に対して評価額(融資額)が足りないのが普通です。それでも一般的な金融機関からは「自己資金10%~20%」を求められるので、融資額が売却価格の80%~90%であれば売買は成立します(簡易的な計算のため諸費用等は除きます)。それはすなわち、評価が低ければ融資ができないということでもあります。

金融機関は融資をして金利を得ることがビジネスの源泉です。その融資を実現するために、いつの間にか不正に手を染めるようになり、その沼から抜け出せなくなったのでしょう。

西武信金の場合

業務改善命令により不正の手口は明らかになっています。

西武信用金庫に対する行政処分について

(1)投資用不動産向けの融資にあたり、形式的な審査にとどまり、不適切な信用リスク管理態勢となっている

ii 投資目的の賃貸用不動産向け融資について、融資期間に法定耐用年数を超える経済的耐用年数を適用する場合には適切な見積りが不可欠である中、経済的耐用年数等を証する書面を作成する外部専門家に対し、金庫職員が耐用年数や修繕費用等を指示・示唆するなどの不適切な行為が多数認められる

http://kantou.mof.go.jp/rizai/pagekthp027000005.html

経済的耐用年数(残耐用年数)をフカすことにより評価額も正比例で上昇。その結果、過剰な金額、過剰な返済期間での融資を反復的に行っていたことが明らかとなりました。これは「この不正融資が実行された時点で債務超過」ということです。

信用力のある金融機関、及び国家資格保有者のコンボによる不正ですが、このケースでは西武信金が首謀者、さらに難関国家資格である不動産鑑定士が共謀していたということがより悪質であると考えています。

金融庁がこの不正を見つけたのは単なる偶然でした。本来は反社勢力への不法・不正融資の疑いにより内部監査をしたはずなのですが、偶然にも芋づる式にこの不正も見つけてしまいました。

そもそもこの「不動産の専門家の判断を用いた経済的耐用年数を活用した融資スキーム」は金融庁も認めており(もちろん不正ではない前提で)国交省もバックアップ、それをメディアでも報じていたため、不正そのものはなかなか見つからない環境でした。

これは明確な不正であるため、業務改善命令以降、まずは西武信金相手に交渉、最終的にはADRを申し立てました。しかし、西武信金は一切の不正を認めませんでした(業務改善命令により不正の事実は認めたものの、私に対する融資においての不正は認めなかった)。それでも一定の譲歩を示したため仕方なく一旦和解(和解しないと差押えからの競売というリスクがありました)。現在は不動産鑑定士を相手取り、不法行為に伴う損害賠償請求の裁判を行っているところです。

スルガ銀行の場合

スルガの場合は、物件の評価を上げるのは当然として、さらに買主の信用力を上げる不正をしていたと私は受け止めています。物件の評価は「レントロールや入居率の改ざん」、そして買主の信用力は「資産や年収の改ざん」でしょう。

スルガとしては「仮にデフォルトしても回収できれば問題なし」、評価が足りない分は資産やサラリーから回収できる目処が立てばOKだったはずです。逆に言えば、回収の可能性を狭める不正をスルガが率先して行ったのか?

職員個人の成績のために融資実行が最優先であったとすれば十分あり得ますが、私はこのやり方には多少なりとも疑問に感じています。だって、競売しても回収できなければ損するのはスルガなのですから。

少なくてもレントロールや入居率の改ざんは業者が行っていたはずです。空室にカーテンを取り付けて夜には照明もつける等は古典的な手法です。年収や自己資金の改ざんもアドビのフォトショがあれば簡単にできることは周知の事実でした。このような不正のスタートは業者だったのでは?と考えています。

突きつけられる自己責任論

大前提を理解してもらうために最初に長々と説明しましたが「売却価格と物件評価額はイコールではない(評価額のほうが低いのが当たり前)」まずはこれを理解して下さい。自分の低リテラシーを棚に上げ、全てを他人のせいにしても常識的な人からは相手にされません。

市場価格より圧倒的に高い不動産を買わされた?いやいや、それは自分で最初に判断すべき内容でしょう

積算や収益還元は誰でも計算できます。何千万~億単位の借金をしようとしている中、その計算は買主が最初にやるべきことです(融資が出そうか?最初の判断はここ)。さらに現地調査を行うのも至極当然であるはずです。そして色々と調査、計算、悩んだ上で最終的にその売却価格での購入の決断をし、融資の契約書に記名押印、そして融資を受けて所有権の移転をしたのは全て買主の判断のはずです。仮に業者やブローカー、スルガから勧められたとしても、です。

この時点で「騙された」と言えるようなことはないと思いますし、仮にあったとしたらその時点で白紙撤回すべきでした。

すなわち、契約を実行したのは全て

自己責任

ここからは絶対に逃げられません。それを全てなかったことのように振る舞い、被害者ヅラして戦っても決していい結果にはなりません。もっと言えば騙されたのではなく業者(やスルガ)と共謀して自ら積極的に不法行為に協力した人も一定数いると思います。

また、上記のとおり、業者の不正に対しては業者相手に戦うのが本来の姿のはずです。不正が明確であるのであれば宅建業法違反等で提訴すればいいだけです。それを一切やらずに(やっているようには見えない)、スルガ相手に戦って果たして勝てるのか?正直、疑問に感じています。

不正の証明は被害者のレスポンシビリティー

「私はスルガの職員から直接指示されそのとおりにやっただけ」という方もいるでしょう。ただ、それをどうやって証明するのか?そこが大きな問題です。

不正の事実の証明責任は被害者側にある

金融機関としては「不正はなかった。なかったことの証明は不可能」と言うに決まっています。

一般的に金融機関の職員は、後日不正の証拠となるようなものを残しません。だからこそ、原則対面や電話でしかやり取りしないのです。かぼちゃの馬車事件においてはLINEの流出がありましたね。あんなこと、素人がやることです。

金融機関側の人間にとっての正義とは「自分の身や金融機関を守ること」。他人を貶めてでも自分を守る、人間として軽蔑、猿以下としか思えませんが、残念ながらそれが現実です。不正を知っている金融機関の職員は山のようにいるはずです。しかし、誰一人、内部通報制度を利用して不正を告発する人はいません(猿以下だから)。人間として普通の良識を持っている人は既に辞めているでしょう。

私が西武信金と対峙した際にも、西武信金は一切の不正を認めませんでした。それはADRという正式な司法の場においてでもです。しかも、最初に言っていたことと次に言っていたことが180度異なっていてもです。都合が悪いことに対しては最終的に「答えない」、それで済んでしまいます。民事での不正の追求の限界は被害者の想像以上に低いレベルにあります。

また、本当に主犯は業者であり、スルガは「業者と買主に騙された我こそが被害者」、と主張してくる可能性もあります。

私の個人的見解ですが、不正の証明が難しい、そして不正の証拠を準備できたとしても一定の自己責任からは逃れられないため、裁判だと負けると思います。そういう意味でも現実解は調停しかないと思いますが、そのハードルはかぼちゃの馬車事件よりも数段高いと思われます。

一般

Posted by 蟻の一穴